七夕の前日、図書室の掲示板には色とりどりの短冊が並んでいた。
「野球選手になれますように」
「ゲームが毎日できますように」
「犬が飼えますように」
華はその中に、もう一枚の短冊をそっと加えた。
「どうか、願いが届きますように」
――H
その夜、図書室の鍵を開けたのは教頭の許可を得てのことだった。
「どうしても確認したいことがあるんです」
華はひとりで室内に入った。
そして、かつて“古い短冊”が見つかったロッカーのさらに奥、
重ねられた本棚の隙間に、紙の束が押し込まれているのを見つけた。
引っ張り出すと、それは何枚もの短冊だった。
少し湿ったような、時間の経過を感じさせるにおい。
「……やっぱり、ここにあったんだね」
声をかけたのは、図書委員として偶然通りかかった拓真だった。
「お母さん、あの短冊の話してたんだ。“あの子の気持ち、代わりに届けたかった”って」
「“あの子”って、知ってたの?」
「うん、小さいとき、何度か会った。
お母さんの知り合いの子。僕には“妹”って紹介されたけど、
いつの間にかいなくなって、名前も出なくなった」
拓真は短冊の束を手に取り、黙って見つめた。
「この中のどれかが、きっと“蒼依”の願いだった」
華は頷いた。
「でも、それを見つけたのは拓真くん。
そして、そのまま願いを伝えようとしたのも、あなた」
「願いって……誰かに届くまで、残り続けるんだね」
「そう。たとえ“消された”ように見えても」
華はロッカーの鍵を閉めた。
明日、子どもたちは新しい短冊に願いを書く。
でもこの棚の奥には、まだ誰かの“残っていた願い”がそっと息をひそめている。
その願いがいつか、ちゃんと届くことを願って。
『願いは誰のもの』fin.
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紙袋の行方
第1週 『見えない鍵』
第2週 『名前のない約束』
第3週 『宿帳の余白』
第4週 『買い取ってない品』
第5週 『願いは誰のもの』
第6週 『二人で書いた誓い』


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