第5週『願いは誰のもの』 第3話 ― 転校生の名前 ―

第5週『願いは誰のもの』

「図書室のあの短冊、やっぱり気になるんだよね」

放課後、長谷川華は再び図書室にいた。
職員の許可を得て、古い出席簿を見せてもらっていた。

目的はひとつ。
“くどう あおい”という名前が、かつてこの学校に在籍していたかどうかを確認すること。

ファイルをめくる。
2015年、2014年……2012年。

それらしき名前は見つからない。

諦めかけたとき、背後から声がした。

「何か、探してるのかい?」

振り返ると、用務員の北条さんがモップを肩に立っていた。

「こんにちは。すみません、少し昔の生徒のことを調べていて……」

「昔って、どのくらい?」

「たぶん……10年か、もう少し前くらいです。“くどう あおい”という名前に心当たりは?」

北条は少し首を傾げたあと、静かに言った。

「青井(あおい)さんなら、いたかもしれないな。漢字は違うが」

「青井さん……?」

「うん。“あおい”って子が、確かにいたよ。あれは……2010年の夏だったかな。転校してきて、すぐいなくなった」

「いなくなった、というのは?」

「家庭の事情だよ。母子家庭だったと聞いた。急に転居したって、職員室で噂になってね」

「それが“くどう あおい”さんだった可能性、ありますか?」

北条は少しだけ目を伏せて言った。

「名字が変わることはある。離婚とか、再婚とか。子どもの名簿には、時に“整理しやすい形”で記される」

その言い方は、どこか含みを持っていた。

「記録に残っていなくても、いた子はいたさ」

そしてこう続けた。

「問題は、“覚えているかどうか”じゃない。“忘れようとしてるかどうか”なんだよ」

華は黙ってうなずいた。

名簿に残らなかった名前。
でも、たしかに誰かの心には残っている名前

それが、「願いごと」に記された“くどう あおい”の正体だったのかもしれない。

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