第4週『買い取ってない品』

滋賀県彦根市の古道具店を舞台に、記録に残らない一枚の皿が静かに人の記憶を揺さぶる。贈ったつもり、受け取ったつもり──。品物に宿った想いが、過去の関係を映し出す5日間の人間関係ミステリー。

 

第4週『買い取ってない品』

第4週『買い取ってない品』 第5話 ― 忘れられた依頼主 ―

その日、閉店後の店内に、静かな時間が流れていた。亜希は帳簿を閉じ、電卓を片づけながら、ふと棚の方へ目をやった。例の小皿は、誰にも触れられることなく、そっとそこにある。「……売らない棚も、悪くないですね」そうつぶやくと、後ろから柴田の声がした...
第4週『買い取ってない品』

第4週『買い取ってない品』 第4話 ― 売られるはずのなかったもの ―

午後2時を回ったころ、店の戸が小さく鳴った。入ってきたのは、落ち着いた雰囲気の30代の女性だった。黒のタートルネックにベージュのスカート、手には何も持っていない。ただ、視線は迷うことなくまっすぐ陶器棚へ向かっていった。そして、迷いなく、例の...
第4週『買い取ってない品』

第4週『買い取ってない品』 第3話 ― 皿に似た模様 ―

「この筆跡、見たことがある気がするんです」貼り紙をそっと差し出すと、店主の柴田はしばらく無言で眺めていた。やがて、ため息のように静かに答えた。「……似てるな。志乃に」「志乃……さん?」「5年前まで、ここで働いていた子だ。桐山志乃。手先が器用...
第4週『買い取ってない品』

第4週『買い取ってない品』 第2話 ― 名前のない買い取り記録 ―

午後、ひと段落した店内で、山瀬亜希は買い取り台帳を再度めくっていた。日付順に記載された品目、数量、買い取り価格、そして依頼主の名前――だが、やはり「青磁・梅紋小皿」の記録は、どこにもない。そのとき、パートの小坂朋子が戻ってきた。「ただいま〜...
第4週『買い取ってない品』

第4週『買い取ってない品』 第1話 ― 棚にあったはずのない品 ―

彦根城から少し歩いた、静かな商店街の裏手。古道具屋「つるや」は、木の看板と小さな丸窓が目印の、時間が止まったような店だった。**山瀬亜希(やませ・あき)**は、その店で働きはじめて一ヶ月。古道具の知識はまだ浅いが、品物の扱いには自信があった...