七夕を間近に控えた6月末、生駒の山あいにある小学校では、各学年ごとに飾りの準備が進められていた。
教育実習中の**長谷川 華(はせがわ・はな)**は、担当クラスの図工準備の一環として、図書室の片隅にある文具ロッカーを開けていた。
笹の束、色紙、短冊、折り紙……
引き出しの奥に、少しだけ埃をかぶった紙袋があった。
「去年の残り……かな?」
華が袋を持ち上げると、その中には既にいくつかの短冊が入っていた。
「勉強ができますように」「サッカー選手になれますように」
そして――
「もういちど、おかあさんにあいたいです」
というひときわ小さな字で書かれた短冊が、ひとつ。
華は思わず、そこに書かれていた名前に目をこらした。
「くどう あおい」
(……あおい? そんな子、クラスにいたっけ?)
担当のクラス名簿を思い出すが、それらしい名前はない。
名簿だけでなく、校内で聞いたこともない。
隣の机にいた担任の西本に、何気なくその短冊を見せてみる。
「去年の短冊かもしれません。少し気になる願い事で、ちょっとびっくりして」
西本は一瞬、動きを止めた。
「……ああ、そうか。去年のね。うん、それ、片付けてくれていいよ」
「あおいさんって、いましたっけ?」
「いや……多分、転校しちゃった子か何かかな。詳しくは僕も覚えてないけど」
その言い方が、どこか曖昧だった。
まるで、思い出さないようにしているような――。
華は短冊をそっと手帳に挟んだ。
誰のものかわからない願い。それが、なぜこの学校に残されていたのか。
答えは、まだ教室のすみに揺れていた。
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紙袋の行方
第1週 『見えない鍵』
第2週 『名前のない約束』
第3週 『宿帳の余白』
第4週 『買い取ってない品』
第5週 『願いは誰のもの』


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