第5週『願いは誰のもの』 第1話 ― 教室のすみで揺れていた ―

第5週『願いは誰のもの』

七夕を間近に控えた6月末、生駒の山あいにある小学校では、各学年ごとに飾りの準備が進められていた。

教育実習中の**長谷川 華(はせがわ・はな)**は、担当クラスの図工準備の一環として、図書室の片隅にある文具ロッカーを開けていた。

笹の束、色紙、短冊、折り紙……
引き出しの奥に、少しだけ埃をかぶった紙袋があった。

「去年の残り……かな?」

華が袋を持ち上げると、その中には既にいくつかの短冊が入っていた。
「勉強ができますように」「サッカー選手になれますように」

そして――

「もういちど、おかあさんにあいたいです」
というひときわ小さな字で書かれた短冊が、ひとつ。

華は思わず、そこに書かれていた名前に目をこらした。

「くどう あおい」

(……あおい? そんな子、クラスにいたっけ?)

担当のクラス名簿を思い出すが、それらしい名前はない。
名簿だけでなく、校内で聞いたこともない。

隣の机にいた担任の西本に、何気なくその短冊を見せてみる。

「去年の短冊かもしれません。少し気になる願い事で、ちょっとびっくりして」

西本は一瞬、動きを止めた。

「……ああ、そうか。去年のね。うん、それ、片付けてくれていいよ」

「あおいさんって、いましたっけ?」

「いや……多分、転校しちゃった子か何かかな。詳しくは僕も覚えてないけど」

その言い方が、どこか曖昧だった。
まるで、思い出さないようにしているような――。

華は短冊をそっと手帳に挟んだ。
誰のものかわからない願い。それが、なぜこの学校に残されていたのか。

答えは、まだ教室のすみに揺れていた。

『願いは誰のもの』 next>> 第2話 ― 願いは誰のもの ―

<< Previous 『買い取ってない品』 第5話 ― 忘れられた依頼主 ―

紙袋の行方

第1週 『見えない鍵』

第2週 『名前のない約束』

第3週 『宿帳の余白』

第4週 『買い取ってない品』

第5週 『願いは誰のもの』

コメント

タイトルとURLをコピーしました