第14週『声を継ぐもの』第5話 ― 声を継ぐもの

第14週『声を継ぐもの』

翌朝、港の空は薄く霞んでいた。
海からの風が静かに吹き、梓の頬を撫でていく。
昨夜の録音を聴いた後、眠れなかった。
頭の中で何度も、風間信一の声が反響していた。

「硝子が割れても、光は通う。
声が途切れても、想いは残る。」

あの言葉の余韻が、今も心の奥に染みている。

FM局のスタジオでは、澪がマイクの前に座っていた。
目の前には昨日のリールテープと、書き直した放送原稿。
「梓さん、今日の特別放送、ほんとにこれでいいの?」
梓は頷いた。
「うん。放送されなかった“風の便り”の続きを、今度こそ届けたいんです。」

スタジオの赤いランプが灯る。
「――それではお聴きください。特別番組『声を継ぐもの』」
澪の声が、穏やかに空気を震わせた。

スピーカーから流れたのは、海と風の音。
そして、風間の録音に重なるように梓の声が響いた。

「この声が、誰かの記憶を照らすなら。
たとえ名前が消えても、光が届くなら。
それが“風の便り”の続きです。」

窓の外、港を渡る風がスタジオの壁を撫でた。
遠くのスピーカーからも同じ放送が流れ、
波止場で作業していた人々が一瞬手を止める。
風が彼らの髪を揺らし、海に向かって声を運んだ。

録音を終えたあと、梓はテープを両手で包んだ。
「これで……祖母が受け取れなかった“便り”を、
私が代わりに届けられた気がします。」

澪は微笑んだ。
「あなたの声、きっと風間さんにも届きましたよ。」

外に出ると、空はもう晴れていた。
港の風が頬を撫で、潮の香りがどこか懐かしい。
梓は胸ポケットから硝子片を取り出し、太陽にかざした。

光が反射して、波の上に一筋の輝きを描く。
まるでその光が、遠く札幌の空へと繋がっていくようだった。

――声は風になり、風は光を運ぶ。
そして光は、また誰かの声になる。

その循環の中に、確かに“紙袋の行方”の記憶が息づいていた。

梓は風に背を押され、次の町へと歩き出した。
今度は、誰かの声を聴くために。

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紙袋の行方

第1週 『見えない鍵』

第2週 『名前のない約束』

第3週 『宿帳の余白』

第4週 『買い取ってない品』

第5週 『願いは誰のもの』

第6週 『二人で書いた誓い』

第7週 『割れた陶片の先』

第8週 『夕立ちの残響』

第9週 『消えた宛名』

第10週 『影送りの窓』

第11週 『記憶を映す硝子』

第12週 『消えた宛先の灯』

第13週 『風の便り』

第14週『声を継ぐもの』

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