第14週『声を継ぐもの』第2話 ― 消えた放送原稿

第14週『声を継ぐもの』

翌朝。
小雨の残る石巻の港は、静かに潮の匂いを漂わせていた。
梓はFM局の編集室で、澪と並んで机に向かっていた。
昨夜再生したカセット――「風の便り」と書かれた未放送テープを前に、
二人はその内容の記録を解析していた。

「これ、放送用の番組じゃない気がしますね。」
澪がヘッドホンを片耳外しながら言った。
「構成もナレーションもなくて、ただ“宛名のない手紙”を朗読してる。
でも声の主は、明らかに訓練された話し方をしてます。」

梓は波の音が重なる部分を聞き返した。
確かに、朗読というより“語りかけ”に近い。
内容も断片的だ。

『……もし、この手紙が誰かに届くなら、
どうか風の音を聞いてほしい。
札幌から南へ渡り、今はここにいます。
声を継ぐ人に――届きますように。』

梓はペンを止め、目を閉じた。
祖母の硝子片。
宛名を消された封筒。
そして、この録音の“札幌”という言葉。

すべての線が、確実にひとつへ向かっている。

澪が机の引き出しを探りながら、古びた紙束を取り出した。
「これ、震災前の放送台本なんです。未放送のまま残ってた分。
たぶんこのカセットと同じ時期……でも、肝心の一枚が抜けてる。」

紙の端には「風の便り・第3回」と印刷されていた。
その次の「第4回」だけが存在しない。

「もしかして、あのテープが“第4回”だったのかもしれませんね。」
梓の言葉に澪は頷いた。
「でも、原稿がない。放送もされていない。
……どうして彼は、最後の回だけを“声だけで残した”んだろう。」

窓の外で、海からの風が吹き抜けた。
カーテンが揺れ、どこか遠くで船の汽笛が鳴る。
その音が、まるで声の続きを語るように響いた。

「澪さん、これ……」
梓は、台本の裏に押された印章を指さした。

【録音協力:風間信一】

二人は顔を見合わせた。

「――彼だ。」

長い旅の記録は、まだ終わっていなかった。

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第5週 『願いは誰のもの』

第6週 『二人で書いた誓い』

第7週 『割れた陶片の先』

第8週 『夕立ちの残響』

第9週 『消えた宛名』

第10週 『影送りの窓』

第11週 『記憶を映す硝子』

第12週 『消えた宛先の灯』

第13週 『風の便り』

第14週『声を継ぐもの』

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