第11週 『記憶を映す硝子』第2話 ― 祖母の手紙

第11週『記憶を映す硝子』

硝子片を小箱にしまった翌日、梓は再び祖母の家に足を運んだ。
午前の光が差し込む物置の中は、埃が舞い、古い紙の匂いが濃く漂っている。
昨日見つけた箱の下に、もうひとつ重たい段ボールがあった。

中には、古びた布に包まれた手紙の束があった。
封筒の色は黄ばんでいて、インクも滲んでいる。差出人の名前はなく、宛名も「宮本」と苗字だけ。
便箋を一枚ずつ広げると、断片的な言葉が目に飛び込んできた。

――「港の明かり」
――「硝子の光」
――「北へ行く日」

文章はどれも短く、具体的な内容はぼやけている。
まるで、誰かに気づかれないように暗号のように書かれた手紙だった。

梓は震える指で、最後の一枚を取り出した。
そこにはこう記されていた。

《次に会うとき、硝子を持っていく。北の地で待っている。》

「……硝子」
思わず声に出す。昨日見つけたステンドグラスの欠片と、この手紙の言葉が結びつく。
祖母はかつて、誰かから硝子を託されていたのだろうか。
そして“北の地”とは――札幌。

そのとき、戸口から兄・智彦の声が飛んだ。
「また何か見つけたのか?」
振り返ると、腕を組んだ兄が険しい顔で立っていた。
「兄さん……祖母は、札幌の人と何か繋がりがあったんじゃない?」
「くだらない。古い手紙に踊らされるな」
「でも、硝子も、この言葉も……」
智彦は苛立ったように顔を背けた。
「掘り返したって意味はない。祖母は何も語らずに逝ったんだ。それが答えだ」

言い捨てるように去っていく兄の背中を見送りながら、梓は手紙を抱きしめた。
――語らなかったのは、語れなかったから。
そう思えてならなかった。

硝子片と手紙。二つの断片は、確実に祖母の“もうひとつの人生”を示している。
梓は決意した。
次に会いに行くべきは、祖母のことを誰よりもよく知っている人――祖母の古い友人、藤堂幸代だ。

 

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