第16週『灯を継ぐ人』第5話 ― 灯を継ぐ人

第16週『灯を継ぐ人』

朝の光が、海の端から静かに顔を出した。
空は淡い金色に染まり、灯台の白い壁がその光を受けて輝いている。
風がやさしく吹き、潮の香りを運んできた。

梓は、灯台の外に出て深呼吸をした。
長い旅の終わりではない。
けれど、胸の奥に“ひとつの区切り”が灯ったような気がした。

手には、昨夜書き足したばかりのノート。
最後のページには、こう記されている。

『光は記録を越えて、人の中に残る。
そしてその光を継ぐ人が、新しい風を起こす。』

背後から澄江が声をかけた。
「ねえ梓さん。
 あの人が言ってた言葉、思い出したの。
 “灯を継ぐのは、見送る人じゃない。
 思い出した人よ。”」

梓は振り向いて微笑んだ。
「……思い出した人。」
「そう。忘れなかった人が次の灯をともす。
 あの人の光を見つけたあなたも、きっとその一人ね。」

澄江は灯台の階段をゆっくり上がっていく。
朝の光が彼女の背を包み、長い影が波打ち際まで伸びていた。

梓は再びノートを開き、ページの余白に小さな文字で書き加えた。

『ここから先は、まだ見ぬ誰かへ。』

その瞬間、風がノートのページをめくり、
インクが乾く前に光が差し込んだ。
硝子片が太陽の光を受け、虹のような輪を描く。

海の上でカモメが鳴いた。
灯台の明かりが静かに消え、朝の光がその役割を引き継ぐ。

梓は歩き出した。
波の音を背に受けながら、ノートを胸に抱きしめる。
風が吹くたびに、ページの間で紙がかすかに鳴った。

それはまるで、
“次の旅を始めよう”と囁く声のようだった。

――風は声を運び、声は記録を残し、
記録は光に変わり、光は人の中でまた風になる。

銚子の海の向こう、水平線の彼方へ。
新しい風が吹き始めていた。

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紙袋の行方

第1週 『見えない鍵』

第2週 『名前のない約束』

第3週 『宿帳の余白』

第4週 『買い取ってない品』

第5週 『願いは誰のもの』

第6週 『二人で書いた誓い』

第7週 『割れた陶片の先』

第8週 『夕立ちの残響』

第9週 『消えた宛名』

第10週 『影送りの窓』

第11週 『記憶を映す硝子』

第12週 『消えた宛先の灯』

第13週 『風の便り』

第14週 『声を継ぐもの』

第15週 『記録の余白』

第16週 『灯を継ぐ人』

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