第16週『灯を継ぐ人』第3話 ― 再生の夜

第16週『灯を継ぐ人』

深夜。
潮が満ち、灯台の周囲を白波が囲んでいた。
梓と澄江は、灯台の螺旋階段を静かに登っていった。
上へ行くほど風が強くなり、空気は潮の匂いを含んで冷たい。

頂上にたどり着くと、灯室の下に小さな観測台があり、
そこに古い録音機が据えられていた。
澄江がスイッチを入れると、低いモーター音が響く。

「この録音、あの人が残した最後のテープよ。」
そう言って、澄江はそっと再生ボタンを押した。

――砂の擦れるようなノイズ。
その向こうで、穏やかな声が響いた。

『ここは銚子。風の終着点であり、光の始まりでもある。
今日も海は、声を拾い、また運んでいく。
もしこれを聴く人がいるなら――
あなたの中にある“灯”を、どうか絶やさないでほしい。』

梓は息を呑んだ。
その声は確かに、これまで旅の中で何度も耳にしたあの声だった。
柔らかく、風に溶けるような音色。
――風間信一。

澄江が囁くように言う。
「この録音をね、あの人は“光の手紙”と呼んでたの。」

声が続いた。

『光は風よりも静かに届く。
風は声よりも早く去る。
けれど、どちらも誰かを照らすためにある。
だから、私は灯に託す。
これが、最後の風の便りだ。』

テープが止まると、灯台の回転灯がちょうど真上を通り過ぎ、
ガラスの内側で光が反射した。

その瞬間――
梓の胸ポケットに入れた古い硝子片が、微かに光を放った。

彼女は驚いて取り出す。
それは札幌の教会で割れた硝子の破片。
風間が最初に修復したものだ。

「……おばあちゃん。」
梓の瞳に涙が滲む。
風間の声とともに、祖母・幸子の面影が蘇っていた。

澄江はそっと肩に手を置いた。
「この光を見てごらんなさい。
あなたが継いできたものが、今ここでひとつになっている。」

風が吹き、灯室の明かりが硝子の欠片を通して虹色に揺れた。
それはまるで、誰かが微笑んでいるような柔らかな光だった。

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紙袋の行方

第1週 『見えない鍵』

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第3週 『宿帳の余白』

第4週 『買い取ってない品』

第5週 『願いは誰のもの』

第6週 『二人で書いた誓い』

第7週 『割れた陶片の先』

第8週 『夕立ちの残響』

第9週 『消えた宛名』

第10週 『影送りの窓』

第11週 『記憶を映す硝子』

第12週 『消えた宛先の灯』

第13週 『風の便り』

第14週 『声を継ぐもの』

第15週 『記録の余白』

第16週 『灯を継ぐ人』

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