竿燈祭りの最終夜。
夜空を埋め尽くす提灯の群れが、ゆらゆらと星座のように揺れていた。
梓は封筒を両手で抱き、祭りの光にもう一度透かした。
昨日と同じように紙の繊維が浮かび上がり、削られた宛名の下から線が伸びていく。
提灯の炎が重なり、文字が徐々に姿を現した。
――「宮本サチ」
梓の胸が震えた。
祖母の名。
やはり、この封筒は祖母宛てに出されたものだったのだ。
彩乃が隣で息をのむ。
「消されていたのは……やっぱり、あなたのお祖母様の名前だったのね」
梓は頷き、指でそっと文字の痕をなぞった。
なぜ宛名を消さねばならなかったのか。
投函した人の意志か、それとも第三者の手か。
真実は闇に包まれている。
けれど、札幌の消印がその答えを北へ導いていた。
祭りの音が高まり、竿燈が大きく傾いた。
倒れかけた竿を必死に支える若者の掛け声。
しかし提灯の火は、一本も消えない。
炎が揺らぎながらも夜空を照らし続けた。
梓は封筒を光にかざし、心の中で祖母に語りかける。
「おばあちゃん……あなたの宛名は消されても、想いは灯の中に生きてる」
そのとき、削られた部分の下に、さらに小さな字がかすかに浮かんだ。
――「札幌 教会」
梓の瞳に涙がにじんだ。
祖母が待っていたのは、やはり札幌から来た人。
欠けた硝子片と、消えた宛名の封筒。
二つの欠片が一つの光へと収束していく。
提灯の群れが風に揺れ、夜空いっぱいに灯が舞った。
梓は胸の奥に熱を抱きしめながら、決意を固めた。
次に向かうのは――札幌。
祖母の旅の続きを、自分が歩くために。
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紙袋の行方
第1週 『見えない鍵』
第2週 『名前のない約束』
第3週 『宿帳の余白』
第4週 『買い取ってない品』
第5週 『願いは誰のもの』
第6週 『二人で書いた誓い』
第7週 『割れた陶片の先』
第8週 『夕立ちの残響』
第9週 『消えた宛名』
第10週 『影送りの窓』
第11週 『記憶を映す硝子』
第12週 『消えた宛先の灯』


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