第12週 『消えた宛先の灯』第4話 ― 夜の竿燈

第12週 『消えた宛先の灯』

夜の秋田市街は、無数の灯で彩られていた。
竿燈の列が通りを埋め、巨大な竹竿に吊るされた提灯が風に揺れるたび、炎が星のように瞬く。
囃子の笛と太鼓が夜空に響き、人々の歓声が波のように広がった。

梓は人混みの中で足を止め、胸の奥で脈打つ鼓動を感じていた。
彩乃が隣で封筒を取り出し、そっと手渡す。
「今しかないわ。……灯に透かして」

梓は深く息を吸い込み、提灯の列に近づいた。
巨大な竿燈がゆっくりとしなり、頭上に迫ってくる。
提灯の光が間近に降り注ぐ瞬間、宛名を消された封筒を胸の高さに掲げた。

炎に透かされた紙の繊維が淡く光り、削られた宛名の下から影のような線が浮かび上がる。
梓の目はそこに吸い寄せられた。

「……“ミヤ”……?」

かすれた文字の端が、確かに見えた。
続きはまだ不鮮明だが、「宮」の文字が宛名に含まれていることは間違いない。

胸の奥に熱が込み上げる。
祖母の姓――宮本。
消された宛名は、やはり祖母へ向けられたものだったのか。

竿燈が大きく揺れ、無数の灯が宙を舞った。
その光に照らされた封筒は、さらに別の線を浮かび上がらせた。
「……子……」
ほんの一瞬、紙が熱を帯びるように光り、文字が現れては消える。

梓は息を詰めたまま、封筒を抱きしめた。
消された宛名の先にあるもの――それは祖母の影を越え、今の自分へ繋がっている気がした。

太鼓の音が轟き、竿燈が倒れる。
しかし、提灯の火は揺らめきながらも消えなかった。
職人の言葉が蘇る。
――灯は倒れても、芯に火は残る。

梓は目を閉じ、封筒の温もりを確かめた。
消えた宛名が、確かにまだ生きていると感じながら。

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紙袋の行方

第1週 『見えない鍵』

第2週 『名前のない約束』

第3週 『宿帳の余白』

第4週 『買い取ってない品』

第5週 『願いは誰のもの』

第6週 『二人で書いた誓い』

第7週 『割れた陶片の先』

第8週 『夕立ちの残響』

第9週 『消えた宛名』

第10週 『影送りの窓』

第11週 『記憶を映す硝子』

第12週 『消えた宛先の灯』

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