第1週『見えない鍵』第5話 ― 鍵が合う場所 ―

第1週『見えない鍵』

夜、再び「コトン」という音が響いた。
美和はすぐにドアを開けた。やはり、そこにはあの紙袋が置かれていた。

そっと拾い上げ、ドアを閉める。手のひらに伝わる、あの重み。
部屋の灯りの下で開けると、今回は小さな古い切符が入っていた。

「……小樽から、札幌まで」

昭和58年の日付が印字されている。特急券ではなく、普通乗車券。もう使えない、誰かの記憶の欠片のような切符。

机の上には、先日の鍵もまだ置いてある。

ふと、美和はその鍵を手に取り、アパートの奥にある古い押し入れの下段を開けた。
引っ越してきたときから気になっていた、錆びた小さな扉のような金属板。
鍵穴のようなものがあったが、特に使わず放っていた。

おそるおそる、鍵を差し込む。

カチリ、と音がして、金属板がゆっくりと開いた。

中には、もう一通の紙袋が入っていた。

手紙と、古びた写真――
写っていたのは、美和が小学生の頃のもの。
彼女と、姉が並んで写っている。後ろには、海と小さな木造の駅舎。

そして、手紙には、こう書かれていた。

「もし、あなたがこの鍵を見つけたなら。
まだ私は、あなたの心のどこかにいるということです。
どうか、忘れないでいてくれてありがとう。
記憶は、誰かが思い出してくれたときにだけ、生き返るのです。」

筆跡は、たしかに――姉のものだった。

震える手で写真を持ち上げると、そこに映っていた駅がどこかで見覚えのある風景だと気づく。
それは、小樽でも札幌でもなく――見たことのない、けれど懐かしい空気を持つ“どこか”。

美和は、鍵をもう一度握りしめた。

誰が紙袋を届けているのか。なぜ姉の筆跡があるのか。
答えはまだ、何もわからない。

でも――
この町に来たのは、偶然じゃなかった。
そう確信できる何かが、今は胸の中にあった。

『見えない鍵』fin.

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