第12週 『消えた宛先の灯』第5話 ― 消えた宛先の灯

第12週 『消えた宛先の灯』

竿燈祭りの最終夜。
夜空を埋め尽くす提灯の群れが、ゆらゆらと星座のように揺れていた。
梓は封筒を両手で抱き、祭りの光にもう一度透かした。

昨日と同じように紙の繊維が浮かび上がり、削られた宛名の下から線が伸びていく。
提灯の炎が重なり、文字が徐々に姿を現した。

――「宮本サチ」

梓の胸が震えた。
祖母の名。
やはり、この封筒は祖母宛てに出されたものだったのだ。

彩乃が隣で息をのむ。
「消されていたのは……やっぱり、あなたのお祖母様の名前だったのね」

梓は頷き、指でそっと文字の痕をなぞった。
なぜ宛名を消さねばならなかったのか。
投函した人の意志か、それとも第三者の手か。
真実は闇に包まれている。
けれど、札幌の消印がその答えを北へ導いていた。

祭りの音が高まり、竿燈が大きく傾いた。
倒れかけた竿を必死に支える若者の掛け声。
しかし提灯の火は、一本も消えない。
炎が揺らぎながらも夜空を照らし続けた。

梓は封筒を光にかざし、心の中で祖母に語りかける。
「おばあちゃん……あなたの宛名は消されても、想いは灯の中に生きてる」

そのとき、削られた部分の下に、さらに小さな字がかすかに浮かんだ。
――「札幌 教会」

梓の瞳に涙がにじんだ。
祖母が待っていたのは、やはり札幌から来た人。
欠けた硝子片と、消えた宛名の封筒。
二つの欠片が一つの光へと収束していく。

提灯の群れが風に揺れ、夜空いっぱいに灯が舞った。
梓は胸の奥に熱を抱きしめながら、決意を固めた。

次に向かうのは――札幌。
祖母の旅の続きを、自分が歩くために。

.fin

第13週『風の便り』next>> 第1話 ― 郵便取扱所の記録

<< Previous  第4話 ― 夜の竿燈

紙袋の行方

第1週 『見えない鍵』

第2週 『名前のない約束』

第3週 『宿帳の余白』

第4週 『買い取ってない品』

第5週 『願いは誰のもの』

第6週 『二人で書いた誓い』

第7週 『割れた陶片の先』

第8週 『夕立ちの残響』

第9週 『消えた宛名』

第10週 『影送りの窓』

第11週 『記憶を映す硝子』

第12週 『消えた宛先の灯』

コメント

タイトルとURLをコピーしました