第14週『声を継ぐもの』第3話 ― 録音の中の人

第14週『声を継ぐもの』

午後、港から吹く潮風がスタジオの窓を揺らしていた。
梓と澪は、放送原稿に記されていた協力者の名を頼りに、
旧郵便局舎を改装した「石巻メモリアル資料館」を訪れていた。

中は静かで、古い機材や通信記録が展示されている。
壁には古い郵便ポスター、テレグラフの送信器、そしてラジオの受信機。
その奥に、一人の男性がいた。
白髪混じりの髪を後ろで束ねた中年の管理人――伊東 駿

澪が声をかける。
「すみません、こちらに“風間信一”さんという方の記録が残っていると聞いたんですが……」

伊東は少しだけ目を細め、静かに頷いた。
「ええ。あの人はここによく来ていました。
ラジオの音を録りにね。風の音、波の音、人の声。
“声は時間の影だから”と言っていたよ。」

「声は時間の影……?」
梓はその言葉を繰り返した。

伊東は棚から古びた録音ノートを取り出した。
中には丁寧な筆記体でびっしりとメモが残されている。
【札幌 → 秋田 → 山形 → 宮城】と書かれた線。
旅の経路のようだ。

「彼は、旅をしながら録音していた。
“風の便り”という連続企画を作るためにね。
各地で出会った人たちの声を集めていたんだ。」

梓の胸が高鳴る。
「札幌から南へ……祖母と同じ道を……」

伊東は微笑んだ。
「そう。彼は“宛名のない手紙”を読む人を探していた。
受け取る相手がいなくても、声にすれば届くと信じていたんだ。」

澪が小さく呟いた。
「だから、あの録音には“札幌から”という言葉が……」

伊東はうなずき、机の引き出しを開けた。
そこにはもう一本、ラベルの貼られていないテープがあった。

【未再生】

「これが、彼が最後に残したものです。
再生はまだ誰もしていない。」

梓は指先が震えるのを感じた。
風間信一が、最後に録音した“声”。
それはきっと――祖母の記憶と繋がるもの。

「聞かせてもらえますか?」
梓の声は、波の音に溶けて消えた。

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紙袋の行方

第1週 『見えない鍵』

第2週 『名前のない約束』

第3週 『宿帳の余白』

第4週 『買い取ってない品』

第5週 『願いは誰のもの』

第6週 『二人で書いた誓い』

第7週 『割れた陶片の先』

第8週 『夕立ちの残響』

第9週 『消えた宛名』

第10週 『影送りの窓』

第11週 『記憶を映す硝子』

第12週 『消えた宛先の灯』

第13週 『風の便り』

第14週『声を継ぐもの』

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