第2週『名前のない約束』 第2話 ― 願いは誰のもの ―

第2週『名前のない約束』

その夜、真帆は久しぶりに、お守りを縫ったときのことを思い出していた。
あれは、教員になってまだ3年目の冬。
受け持っていたある生徒が、志望校をめぐって家庭と揉めていた。
真帆は、その子の気持ちを少しでも支えたくて、手縫いでお守りを作ったのだった。

だが、その“願い”がどうなったかは知らない。
あの子は転校し、真帆も教育現場を離れた。

──そして、今日。
自分が縫ったはずのお守りが、拓真のランドセルについていた。

誰が渡したのか。
なぜ今になって。
拓真と、かつての“あの子”に何か関係があるのか──。

翌日、英語の授業後、教室の外に岡部弘美が現れた。

「佐伯先生、こんにちは。お時間、大丈夫ですか?」

柔らかな口調と丁寧な身なり。
だが、その奥に張り詰めた空気が漂っていた。

「うちの子、お守りを気にしてるみたいで……“中に何が書いてあるのか見てみたい”って言ってるんです。けど、私はまだ開けさせたくなくて」

「……そうですか」

真帆は答えながら、内心戸惑っていた。

弘美は、あの刺繍に気づいているのか?
それとも、ただ“効き目”を信じたいだけなのか。

「お守りは、どなたから?」

問いかけると、弘美はふと視線を落とし、あいまいに笑った。

「夫の知り合い、ということにしてるんですけど……実は、あの子が小さいころにいただいたもので。手放せなくなってて」

何かを隠しているような口ぶり。だが確信は持てない。

帰り際、弘美はポツリとつぶやいた。

「……“あの子が欲しがってる未来”と、“私が願っている未来”が、同じかどうか、わからなくなるときがあるんです」

その言葉に、真帆はかすかに胸を締めつけられた。

かつての自分が、生徒に“願ってほしい未来”を押しつけていなかったか。
それが、あの刺繍に込められていたのではないか──。

拓真が開けたがっているお守り。
けれど、それを開いたとき、傷つくのはなのだろうか。

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