第6週『二人で書いた誓い』 第5話 ― 二人で書いた誓い ―

第6週『二人で書いた誓い』

7月7日、文集室の前。
夕暮れに染まる空の下、咲良は躊躇いながらもドアノブに手をかけた。

軋む音を立てて開いた扉の先には、ほこりっぽい空気と、積まれた資料棚。
けれどその中央に、小さなちゃぶ台と、ふたつのクッションが置かれていた。

そこにいたのは、瑞月だった。

あの頃と変わらない、でも少しだけ大人びた面影。
お互いに言葉が出てこなくて、しばらく沈黙が流れた。

「……来てくれたんだね」
瑞月が、微笑んだ。

咲良は喉の奥が熱くなるのを感じた。
何から話せばいいのか分からず、ただ一言だけが先に口をついた。

「……ずっと、探してた」

瑞月は、ちゃぶ台の上にあるノートを指差す。
あの交換日記だった。咲良が持っていたものとは、少しだけ違う。

「これは、私が持ってた方。あの日、最後のページを破ったのは私。
でも、どうしても、渡せなかった」

咲良は、ノートを手に取り、最後のページをめくる。
そこには――

「ごめんね。あなたが書いた物語の続きを、勝手に終わらせたくなかった」

「書きたかったんだよ、あの続きを。
でも、あなたに“うまくない”って言われるのが怖かった。
自分があなたの“足を引っ張ってる”って思い込んで……」

瑞月の声は震えていた。

咲良はゆっくり首を振った。

「そんなこと、思ったことなかった。
私は、瑞月と一緒じゃなきゃ、物語なんて書けなかったよ」

しばしの沈黙のあと、咲良はリュックからもうひとつのノートを取り出す。
それは、「風のむこうで待ってる」の原稿だった。

「これ、すずらん堂で見つけた。……一緒に、続きを書こう」
「今から?」

瑞月が驚いたように笑う。

「うん。10年ぶりの“交代”、してもいいかな」
「……もちろん」

ちゃぶ台の上に並んだ2冊のノートと、ふたつのペン。
窓の外では、山あいの夜風が、七夕飾りの短冊を優しく揺らしていた。

二人は静かに、空白だったラストに向かって、新たな一行を書き始めた。

これは、“二人で書いた誓い”の物語。
そして、ようやく迎えた、再会の続きを描く物語。

『二人で書いた誓い』fin.

『割れた陶片の先』 next>> 第1話 ― 市の日の出会い ―

<< Previous 第4話 ― 書き直された記憶 ―

紙袋の行方

第1週 『見えない鍵』

第2週 『名前のない約束』

第3週 『宿帳の余白』

第4週 『買い取ってない品』

第5週 『願いは誰のもの』

第6週 『二人で書いた誓い』

コメント

タイトルとURLをコピーしました