交換日記を開くと、3ページ目にだけ、日付が抜けていた。
そのページには、かつて中学時代に二人で決めた“ルール”が、子どもっぽい文字で並んでいた。
① 日記は1日おきに交代で書くこと
② 嘘は書かないこと
③ 他の誰にも見せないこと
懐かしさに胸を締め付けられながらも、麻子はある違和感に眉をひそめた。
「……こんな文、書いた覚えない」
ルールの下に、もう一文、青いインクで追加されていたのだ。
④ 約束を破ったら、ここにはもう何も書かない。
書いたのは誰だろう? それとも、自分が忘れてしまっているだけ?
麻子は自分の筆跡と照らし合わせたが、どうしても思い出せなかった。
***
その夜、麻子は地元のカフェ「しろつめ草」で、旧友の木島瑠璃と再会した。
中学以来の再会だったが、瑠璃の第一声はあっさりしたものだった。
「ひさしぶり。なんか、変わんないね」
「うん。……そっちも」
形だけの会話。ぎこちない笑顔。心の距離は埋まらない。
「ねえ、交換日記って、覚えてる?」
そう切り出すと、瑠璃は一瞬、目を伏せた。
「うん、まあ……」
「このページ、見覚えある?」
スマホで撮っておいた日記のページを見せると、瑠璃はわずかに眉を動かした。
「……そのルール、最後のは私が書いたかも」
「どういう意味?」
「“破られたから”ってことだよ、きっと。……あなたに」
一瞬、時が止まったようだった。
麻子は何も言えなかった。思い当たることが、何もなかったからだ。
「でも、もういいの。昔の話だし。こっちも、大人になっちゃったしね」
それは、許しだったのだろうか。
それとも、諦めだったのか。
麻子の心に、静かなざわめきが残ったまま、会話は自然と終わりを迎えた。
***
帰宅後、再び交換日記を開く。
その「ルールのページ」の裏側に、インクのにじみのようなものがあった。
光にかざすと、かすかな文字が浮かび上がる。
ほんとは、ずっと言いたかった。
あのとき、裏切られたって思ったこと。
でも、ほんとうは――。
文は、そこまでで途切れていた。
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紙袋の行方
第1週 『見えない鍵』
第2週 『名前のない約束』
第3週 『宿帳の余白』
第4週 『買い取ってない品』
第5週 『願いは誰のもの』
第6週 『二人で書いた誓い』


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