第6週『二人で書いた誓い』第4話 ― 書き直された記憶 ―

第6週『二人で書いた誓い』

咲良はその夜、宿に戻ってからもずっと、交換日記をめくっていた。
あの文集室で見つけた小さなメモ、そして自分の記憶の隙間に浮かぶ、瑞月の笑顔。
何かが少しずつ、輪郭を取り戻し始めていた。

翌朝、咲良はもう一度「すずらん堂」を訪れた。
店主の村井さんが奥から古びた箱を抱えて現れる。

「この前のノートね、気になってたみたいだから、これも見てみたら? 昔、文集室に寄付されたものみたいだけど、何冊かウチに流れてきてるのよ」

箱の中には、色褪せた日記帳やスケッチブックが並んでいた。
その中の一冊、小さなリングノートを手に取った瞬間、咲良の指が止まる。

「タイトル:風のむこうで待ってる」

中を開くと、見覚えのある文字で物語が綴られていた。
けれど、書き手の名前は──

「著:瑞月・さくら」

「……え?」

思わず声が漏れる。
咲良には、このタイトルにも、この共作という記憶にも、まったく覚えがなかった。

でも、書かれた文章はたしかに、自分の書き方に似ていた。
柔らかい表現、繰り返しを多用する癖。
そして途中から、まるで「もう一人の自分」が語るように、文章が切り替わっている。

まるで、二人の記憶が、ひとつの物語として再構成されたようだった。

咲良は胸の奥がざわめくのを感じた。
これはいつ書いたのか? 本当に自分が書いたのか?
それとも、瑞月が咲良の言葉をなぞってくれていたのか──。

ふと、最後のページに挟まれた付箋に気づく。

「この結末を、いつか一緒に書き直そう」

それは、瑞月の文字だった。

あの頃、交わすはずだった言葉、書きかけだった物語、そして叶わなかった“約束”。
それらが今、ノートの中で静かに息を吹き返している。

咲良はそっとページを閉じると、胸の奥にぽっと灯るものを感じた。

「……書き直そう。私の言葉で」

失われたと思っていた記憶は、ただ“閉じられていただけ”だったのかもしれない。
誰かと交わした誓いも、きっとまた、新たな形で結べる。

咲良はノートを胸に抱え、店をあとにした。

次は、瑞月に会いに行こう──
それが、自分自身にできる“書き直し”だと信じて。

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紙袋の行方

第1週 『見えない鍵』

第2週 『名前のない約束』

第3週 『宿帳の余白』

第4週 『買い取ってない品』

第5週 『願いは誰のもの』

第6週 『二人で書いた誓い』

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