第4週『買い取ってない品』 第3話 ― 皿に似た模様 ―

第4週『買い取ってない品』

「この筆跡、見たことがある気がするんです」

貼り紙をそっと差し出すと、店主の柴田はしばらく無言で眺めていた。
やがて、ため息のように静かに答えた。

「……似てるな。志乃に」

「志乃……さん?」

「5年前まで、ここで働いていた子だ。桐山志乃。手先が器用で、品物の手入れも、タグ付けも上手かった」

名前を聞いた瞬間、亜希の中の記憶がつながった。
以前、棚卸しで使われた古い伝票の中に、「桐山志乃」の名前を見たことがあったのだ。

「その人、今は……?」

「辞めてから連絡は取ってない。何か、思うところがあったんだろう。…“皿を返す”って言葉が、あの子らしい」

「ということは、この小皿、もともとはその人のものだったんですか?」

柴田は少し首を振った。

「いや、それが複雑でな。あの皿――俺が志乃に贈ったものなんだよ」

「……え?」

「ある時期、そういう関係だったんだ。深くはなかったけど、お互いに“どこか心が休まる時間”を求めてたのかもしれない」

「じゃあ……」

「たぶん、志乃にとってあの皿は、もらった“つもり”じゃなかったのかもしれない。何かを代償にしたと思ってたのかもな」

返す、という行為。
名前を書かない、という選択。
それは単なる「品物のやりとり」ではなく、心の決着だったのだ。

その日の帰り道、亜希は皿の模様を見つめていた。

小さな梅の花は、まるで何かを閉じ込めるように内側に丸まっていた

“気持ち”というものが品物に宿るなら、
この皿には、渡すべきでなかったと気づいた“誰かの後悔”が残っている気がした。

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